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【CEDEC2020レポート】アジャイル開発10年間の軌跡

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2020年9月2日から3日間開催されているゲーム開発者向けカンファレンス、CEDEC2020の講演レポート。

本稿では、二日目の講演、株式会社イリンクス、代表取締役、田中氏の講演『アジャイル開発10年間の軌跡』のレポートを行う。

昨今のゲーム制作は数年に渡る長期プロジェクトであり、また大人数が携わるため、『面白いゲームを予定通りに完成させる』という一見簡単にできそうなことが非常に難しい。多くのゲーム開発社もその難しさと日々戦いながら、ゲーム開発をしている。

本講演では、田中氏が10数年に渡りゲーム開発にアジャイル開発手法を活かすべく四苦八苦しつつも、どのように実運用の改善を行ったかについて、紹介している。本講演を通じて、ゲーム開発開発者の誰しもがぶつかる「ゲーム開発、あるある」をどのようにアジャイル開発手法を応用し乗り越えられるのか、開発改善の一助となるのではないかと考えられる。プロジェクトマネージャーはもちろんのこと、アーティストやプログラマー、プランナーなど開発メンバーにも有用な発表であった。

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2009年、アジャイル開発との出会い

田中氏はもともと株式会社ゲームリパブリックに所属。Playstation3向けソフト『タイタンの戦い』の開発に携わっていた。『タイタンの戦い』の制作は、デスマーチが多発した、非常に大変なプロジェクトであったという。

ゲーム開発開始時のプロジェクト計画の際、まず最初にタスクを割り出し、ガントチャートベースでスケジュールを引いてスタートする。しかし、実際のゲーム制作は、まず作り、それを試して面白さを検証し、より良いアイディアを反映するというアプローチをとる。すなわち、開発において、頻繁に再計画が必要であった。

しかしリーダーは多忙のため、スケジュールの修正の時間がなかなか確保できなくなり、誰もスケジュールがわからなくなる、という問題が起こっていたのである。

ゲームリパブリック時代のスケジュール管理。なぜ、プロジェクト進行がうまく行かなかったのかがわかる。

田中氏は、『タイタンの戦い』開発終了後、開発を振り返り、今後の新規タイトル開発に向け、どのようにゲーム開発を進めれば、AAAタイトルのゲーム開発がうまくいくのか、を考えていた。そんな中、田中氏は2009年のCEDECにて発表された『Scrum 最新技術事例「Star Wars The Old Republic」での大容量ゲーム開発』という発表で、スクラムに出会った。

スクラムとは

1986年に竹内氏、野中氏の論文『The New New Product Development Game』にて、スピードと柔軟性の向上を重視した開発手法として発表されたもので、さらに1991年~2001年にかけて、サザーランド博士やシュウェイバー博士などが、前述の論文にソフトウェア開発用のアイディアを足し、スクラムと呼ぶようになった。

アジャイルソフトウェア開発宣言。アジャイル開発における大事な考え方がまとまっている。

田中氏は本講演で紹介されたスクラムが、自分の直面している問題の解決になるのではないかと考え、スクラムのゲーム開発への導入に取り組み始めた。

2010年、ゲーム開発へのスクラム導入

意気揚々とスクラムの導入に取り組んだ田中氏。最初は二人で取り組んだが、中々思い通りにはいかなかったという。CEDECの聞きかじりだけでは難しい、スクラムの体型理解が必要だと考えた田中氏は、プロジェクトマネージメントの勉強に取り組み、遂には「認定スクラムマスター」の資格の取得に成功した。そしてディレクターと交渉し、現場にスクラムを導入したという。

しかし、スクラムの導入をしてみたものの、Redmineでスプリントバックログ、バーンダウンチャートの代わりにロードマップ・ガントチャートと、本来あるべきスクラム手法の導入ができず、プロジェクトとしては中々うまくいかなかったという。というのも、開発メンバーがもともとRedmineといった既存ツールに慣れ親しんでおり、またすでにそれで運用が回っていたため、新しいツールに移行が困難であったことが要因だったという。

さらに勉強が必要だと感じた田中氏はClinton Keithの『AGILE GAME DEVELPMENT WITH SCRUM』を読み、これで「スクラムを完全に理解した!」と思えるほどに至ったが、うまくスクラムが回り始めたタイミングでゲームリパブリックが倒産してしまう。

2011年、スクラム再スタート

ゲームリパブリック倒産後、株式会社イリンクスを立ち上げた田中氏は、今度こそトップダウンで基本に忠実にスクラムを行おうと再び取り組み始めた。そして以下のスクラム手法を導入した。

  • プロダクトバックログ
  • リリースバックログ
  • スプリントバックログ
  • タスクボード
  • バーンチャート
  • プラグマティックペルソナ

最終的に様々な点が改善されたが、当時は手探りな進め方で、未熟な部分も多かった。状況としては下記のような状況であった。

  • 付箋でのバックログ運用により、不足分の洗い出し→OK
  • スプリントプランニングやレビュー、振り返りにより、バックログをへらす→OK
  • 仕様追加や変更により、プロジェクト後半にバックログが溢れ、全体スケジュールが間に合わない→NG
  • リソース管理に看板を使用していたが、リソース数が多く付箋だと手に余る→NG

2013年、付箋での運用からデジタル管理への以降

会社がスケールし、プロジェクトが大きくなるにつれ、付箋だらけになってしまうなど、アナログであるがゆえのいくつかの問題に直面するようになった。

プロジェクトの拡大に応じて増えていく付箋。
  • コンシューマーゲーム開発は長期間の開発
    • 付箋の数が数千枚に
    • 付箋の破損および紛失
  • ベロシティ・バーンダウンチャートのカウントのコストが肥大化
  • 社外関係者への説明コストも大きい

そこで田中氏はスクラムのデジタル化に取り組むべく、プロジェクトにHansoftを導入したという。

計画を付箋で、運用・報告をデジタルで行うことで、ベロシティチャートやバーンダウンチャートなども自動で生成されるようになり、長期計画も見渡しやすくなるなど、スクラム運用が改善し、スクラムによるゲーム開発が安定して行えるようになった。

2015年、停滞とトラブル

田中氏が会社を立ち上げ、スクラムをゲーム開発に導入して約5年、スクラムによる開発が安定し、停滞感が出始めるとともに新たなトラブルが生じ始めた。

振り返りの廃止

振り返りのたびに「誰々が悪い」という発言をするメンバーのために空気が悪くなり、プロダクトオーナーから、振り返りの開催をしばらく辞めたいという提案があった。

その後結局再開せずにプロジェクトが終了し、さらにプロジェクト自体も振り返りは行われずじまいであった。

デイリースクラムを廃止し、スプリントを3~4週間毎から1週間毎に

人数が増えたことにより一回のデイリースクラムの時間が長時間化し、スクラムの結果をまとめるためのスクラムが形成されてしまい、ますます時間がかかるようになってしまった。さらに、チームの成熟度が増し、困ったらデイリースクラムを待たずにすぐに声が上がるようになった。

そこで、デイリースクラムを廃止し、スプリントの頻度を3~4週間に一回の頻度から毎週行うように変更を行った。

この対応は意外にも、上手くいったという。

2017年、新たな問題

タスク消化はできていたが「品質不足」や「機能不足」「想定と違うものができあがる」などの問題が生じ、タスクが度々追加されるということが起こっていた。

結果プロダクトバックログが減らずスケジュールがどんどん遅延してしまっていた。

そこで、田中氏は、スクラムマスターの採用を行い、プロジェクトを2人体制で見る体制をとった。結果的に

  • 一人では気づけ無いことを気付けるように
  • 得意・不得意の分担
  • ゆとりができていろいろなことに気が回せるように

というメリットを享受できた。

一方でプロジェクトが上手くいっていない、しかしなにが上手く行っていないのかがわからない、という問題に直面したという。

2020年、原点に立ち返って

田中氏は、アジャイルコーチなどのアドバイスに基づき、その時の状況を俯瞰して分析したという。そしてある点に気づく。スプリントを1週間毎にした結果、スプリントプランニングとスプリントレビューを都度行うのが大変になり、スプリントレビューがおざなりになってしまい、プランニングが中心になってしまっていたのである。

デザイナーは問題に気づいていたが、ディレクターやスクラムマスターに届く前にその声が消されてしまっていた。

結果、タスク消化は順調に進行できていた一方で、ゲームの面白さについて議論する場が失われてしまっていた。儲からないプロダクトを良い方法論・良いチームで作っても儲からないことには変わりない、すなわち、うまくたくさん作ることが「最重要」なわけではない。成果のほうが大事であるという基本を思い出したという。スクラムの本来の目的は「面白いゲームを作る」ことである、という基本に立ち返る必要があったのだ。

まとめ

田中氏は「10年間アジャイルに取り組んだまとめ」として、

  • 何のためにスクラムをしているのか忘れてしまった(最終的に思い出した)
  • 結果的にスクラムの凄さを知った
  • チームメンバーに大事なことを学んだ

と締めくくっている。

プロジェクトマネージメントを行うと、どうしても、メンバー間の問題をなくし、いかに効率よくタスクをこなすか、という点に目が行きがちで、「面白いゲームを作る」というゲーム制作のミッションを見失いがちである。

ゲーム開発のプロジェクトマネージャーに、面白いゲームを造るための良いプロジェクトマネージメントとはなにか、を問いかける良いきっかけとなる講演であった。